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老朽化アパートの修繕義務はどこまで?台風シーズンに備えるオーナーの法的責任

台風シーズンは、老朽化したアパートの傷みが気になる時期です。アパートの修繕はどこまでオーナーの義務なのか、修繕を放置して事故が起きた場合に誰が責任を負うのかを、民法の規定にそって弁護士が解説します。建替えを検討する際の注意点も紹介します。

老朽化アパートの修繕義務はどこまで?台風シーズンに備えるオーナーの法的責任

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アパートの修繕は、原則としてオーナーが負う義務です。
ただし、入居者の責めに帰すべき事由で必要になった修繕は、この義務の対象外です。

台風シーズンを迎え、外壁や屋根の傷みが気になる時期です。
建物の状態を見直すうえで、防災の観点も欠かせません。
アパートオーナーの皆さまに向けて、老朽化のリスクや修繕義務の範囲、事故の責任、対応策、立退きの基本までを解説します。

老朽化したアパートには、どのようなリスクがあるのか


老朽化のリスクが生じる目安は築30年とされ、空室や家賃の下落だけでなく、建物の倒壊による責任にもつながります。

老朽化のリスクが意識される目安は築30年


賃貸物件の老朽化によるリスクが生じる目安は、築30年とされています。
ただしこれは目安であり、築30年を過ぎれば問題が起きるというものではありません。

1981年の新耐震基準の導入と旧耐震基準の建物


1981年(昭和56年)6月1日に改正建築基準法施行令が施行され、いわゆる新耐震基準が導入されました。
同日より前に建築確認を受けた建物は旧耐震基準の建物と呼ばれ、耐震性の確認が特に重要になります。

空室・家賃の下落・修繕費・倒壊というリスク


老朽化によって生じる主なリスクとして、次の4つが挙げられます。


・入居者が決まりにくくなり、空室が増える
・家賃が下がり、収入が減る
・修繕の頻度が増え、費用がかさむ
・建物が倒壊し、入居者に被害が及ぶ

建物が倒壊し入居者に被害が及んだ場合、所有者であるオーナーが責任を問われる可能性があります。

アパートの修繕は、どこまでオーナーの義務なのか


賃貸人は、賃貸物の使用および収益に必要な修繕をする義務を負います(民法606条1項)。
ただし、賃借人の責めに帰すべき事由で修繕が必要になった場合は、この義務の対象外です。

賃貸人は使用や収益に必要な修繕をする義務を負う


民法606条1項は、賃貸人が賃貸物の使用および収益に必要な修繕をする義務を負うと定めています。

修繕義務の対象には建物本体だけでなく、給排水設備なども広く含まれます。

また、賃貸人が保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人はこれを拒むことができません(民法606条2項)。

入居者の責めに帰すべき事由による損傷は義務の対象外


ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によって修繕が必要となったときは、この義務は及びません(民法606条1項ただし書き)。

もっとも、原因が入居者の責めに帰すべき事由にあたるかどうかは、個別の事情によって判断されます。

老朽化による不具合か、入居者の使い方による損害かによって、修繕の負担が変わります。

設備の老朽化による水漏れは原則としてオーナーの負担


蛇口や水道管など、賃貸物件の設備が老朽化したことが原因で水漏れが起きた場合、賃貸借契約に特段の定めがない限り、修理費用は原則としてオーナーの負担となります。

なお、民法606条1項の修繕義務の定めは、当事者の合意で変更することができます。小規模な修繕を入居者の負担とする特約が設けられている場合もあるため、契約書の内容を確認しておくことが大切です。

対応が遅れるほど問題が長期化しやすく、早い段階での対応が大切です。

実際のご相談でも、どこまでが貸主の負担かが争点になる場面をうかがいます。

修繕を放置したまま事故が起きたら、誰が責任を負うのか


建物の設置または保存に瑕疵があって他人に損害が生じた場合、まず占有者が賠償責任を負い、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは所有者が賠償責任を負います(民法717条1項)。
所有者には占有者のような免責の定めがありません。

建物の瑕疵による損害は、まず占有者が責任を負う


土地の工作物の設置または保存に瑕疵があることによって他人に損害が生じたときは、まずその工作物の占有者が、被害者に対して損害を賠償する責任を負います(民法717条1項)。

占有者とは、建物を事実上支配している人のことです。
アパートも「土地の工作物」にあたり、瑕疵(あるべき安全性を欠いている状態)が問題になります。

たとえば、台風で外壁が落ち、通行人がけがをする場合です。

もっとも、瑕疵があるかどうかは、通常予想される風雨などに耐えられる安全性を備えていたかという観点から判断されます。想定を超える異常な自然災害によって被害が生じた場合には、瑕疵が否定されることもあります。

占有者が必要な注意をしたときは、所有者が責任を負う


ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者が損害を賠償しなければなりません(民法717条1項ただし書き)。

この場合、所有者については、占有者のような免責の定めが置かれていません。
そのため、所有者は過失がない場合でも賠償責任を負うことになります。

賃貸アパートでは、オーナー自身が占有者にあたる場合もあれば、管理の状況によって判断が分かれる場合もあります。
オーナー自身が占有者にもあたる場合には、占有者として必要な注意をしていたとしても、所有者としての責任は免れないため、結局オーナーが責任を負うことになります。

修繕義務と工作物責任は、相手方も要件も異なる


修繕義務は、契約の相手方である入居者に対して負う義務です。
これに対して工作物責任は、損害を受けた人に対して負う責任であり、通行人などの第三者も対象になります。

修繕義務を果たさない状態が続けば、入居者から、使用できない部分に応じた賃料の減額(民法611条1項)や損害賠償を求められたり、入居者が自ら修繕をしてその費用を請求してきたり(民法607条の2、608条1項)する可能性があります。

老朽化にどう対応する?大規模修繕・建替え・売却・リノベーション

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老朽化への対応は、大きく分けて大規模修繕・建替え・売却・リノベーションの4つです。
どれを選ぶかは、建物の状態と今後の持ち方によって変わります。


・大規模修繕:給排水設備の交換や外壁の補修を行い、入居者の確保と事故の予防につなげる

・リノベーション:内装や間取りを刷新して新しい入居者層を開拓する。大規模修繕より費用を抑えられる場合もある

・建替え:最新の耐震技術を導入できる。取り壊しから新築、入居までの間は収入が得られない

・売却:現金化できるほか、管理の負担から離れられる

使い続けるなら大規模修繕とリノベーション、持ち方を変えるなら建替えと売却です。

建物を使い続けるなら、大規模修繕やリノベーション


大規模修繕は、家賃の下落防止に加え、事故の予防という意味も持ちます。
リノベーションは、新しい入居者層の開拓に向いています。

持ち方を変えるなら、建替えや売却


建替えは耐震性の面で有利ですが、完成までの間は収入が得られません。
売却は現金化と管理負担の解消につながります。

建替えを選ぶ場合には入居者の退去が必要になり、そこには法的な要件があります。

建替えを選ぶ前に知っておきたい、立退きの基本


入居者の合意がないまま、貸主側から契約の更新を拒絶したり解約を申し入れたりして退去を求めるには、借地借家法上、正当事由が必要です。

老朽化しているというだけで、ただちに認められるわけではありません。

貸主の都合で退去を求めるには正当事由が必要


貸主側から契約の更新を拒絶したり、解約を申し入れたりして入居者に退去を求める場合には、借地借家法上、正当事由が必要です(借地借家法28条)。
一方、入居者と話し合い、合意のうえで契約を終了する場合(合意解約)には、正当事由は問題になりません。
なお、定期建物賃貸借(借地借家法38条)の場合は、契約の更新がないため扱いが異なります。

ここでいう「正当事由」とは、退去を求めるだけの正当な理由を意味します。

老朽化していれば当然に認められるわけではない


老朽化しているというだけで、ただちに正当事由が認められるわけではありません。

老朽化によって建物が危険な状態となっている場合には、建替えの必要性が、正当事由を基礎づける重要な事情として考慮されます。
耐震診断で倒壊の危険性が高いと判定された場合や、外壁が大きく崩れて危険な場合が例として挙げられます。
ただし、耐震補強などの修繕で経済的に対応できる場合には、正当事由が否定されることもあります。裁判例では、補強工事と建替えの費用の比較や、建替え計画の具体性なども踏まえ、立退料の提供とあわせて判断されることが多くみられます。

反対に、少し古くなって見栄えが悪くなった建物を改装し、より高い賃料で貸したいという理由にとどまる場合には、正当事由として認められない可能性が高いとされています。

立退きを進めるときの流れと立退料の考え方


立退きを進めるときの流れは、次のとおりです。


・入居者への説明:できるだけ早い段階で事情を説明する。期間の定めがある契約で更新しない旨を通知する場合は、期間満了の1年前から6か月前までの間に行う必要がある

・転居先の紹介:近い条件の物件をあっせんする。家賃が上がる場合は差額を一定期間補う例もある

・立退料の交渉:個々の状況を踏まえて算定する

・合意の書面化:まとまった条件を書面に残す

立退料について法律上決まった算定基準はなく、家賃の6か月分程度が目安として挙げられることもありますが、迷惑料や引越しの費用、家賃の差額など、個々の状況によって大きく異なります。

立退料は、正当事由を補完する位置づけであるとされています(借地借家法28条)。

台風シーズンのいま、防災の観点からオーナーが確認しておきたいこと


まずは建物の状態と、入居者から届いている連絡を確認することから始まります。

台風の季節に合わせて、次の4点を確かめておきましょう。


・外壁や屋根、階段など、傷みが出やすい場所の状態

・入居者から届いている不具合の連絡とその対応状況

・大規模修繕・建替え・売却・リノベーションのどれを検討するか

・将来物件を引き継ぐ予定の家族との話し合い

実際のご相談でも、不具合の連絡を受けてから対応を考える方が少なくありません。
早めの相談が、問題の長期化を防ぐことにつながります。

よくある質問

設備の老朽化が原因で水漏れが起きた場合、修理費用はオーナーと入居者のどちらが負担しますか?


蛇口や水道管など設備の老朽化が原因である場合、契約に特段の定めがない限り、修理費用は原則としてオーナーの負担となります。
賃貸人は、賃貸物の使用および収益に必要な修繕をする義務を負うためです(民法606条1項)。

ただし、入居者の責めに帰すべき事由によって修繕が必要になった場合は、この義務の対象外です。
原因がどちらにあたるかは、個別の事情によって判断されます。

台風で外壁の一部が落ち、通行人がけがをした場合、オーナーは責任を負いますか?


建物の設置または保存に瑕疵があって他人に損害が生じた場合、まず占有者が賠償責任を負い、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者であるオーナーが賠償責任を負います(民法717条1項)。
所有者には占有者のような免責の定めがないため、過失がない場合でも責任を免れません。
なお、賃貸アパートでは、外壁などの部分についてオーナー自身が占有者にあたる場合もあり、誰が占有者にあたるかは管理の状況によって判断が分かれます。オーナー自身が占有者にもあたる場合でも、所有者としての責任は免れません。
ただし、通常の台風に耐えられる安全性を備えていたのに、想定を超える異常な自然災害によって外壁が落ちたような場合には、瑕疵が否定されることもあります。

建物が古くなったことを理由に、入居者へ退去を求めることはできますか?


入居者の合意がないまま、貸主側から契約の更新を拒絶したり解約を申し入れたりして退去を求めるには、借地借家法上、正当事由が必要です。入居者との話し合いで合意ができれば、合意解約によって退去してもらうことは可能です。
老朽化によって建物が危険な状態となっている場合には、正当事由を基礎づける事情として考慮されますが、修繕で対応できる場合には否定されることもあり、立退料の提供とあわせて判断されることが多くみられます。見栄えを良くして高い賃料で貸したいという理由にとどまる場合は、認められない可能性が高いとされています。いずれも個別の事情によって判断が分かれます。

修繕や建替えを検討し始める目安は、築何年ごろですか?


修繕や建替えを検討する一つの目安として、老朽化によるリスクが生じるのは築30年ごろとされています。
ただしこれは目安であり、築30年を過ぎれば問題が起きるというものではありません。
1981年6月1日より前に建築確認を受けた旧耐震基準の建物については、耐震性の観点から早めに状態を確認しておくと安心です。

立退料を支払えば、入居者に退去してもらえますか?


立退料は、正当事由を補完する位置づけとされています。
支払えばそれだけで退去を求められるというものではありません。
金額についても法律上決まった基準はなく、家賃の6か月分程度が目安として挙げられることはありますが、迷惑料や引越しの費用、家賃の差額など個々の状況によって大きく異なります。

まとめ:老朽化への対応は、責任の範囲を知ることから始まる


アパートの修繕義務は、原則としてオーナーが負いますが、入居者の責めに帰すべき事由による損傷には及びません。

事故の責任はまず占有者が負い、占有者が必要な注意をしたときは所有者が負う順で決まります。

対応には大規模修繕・建替え・売却・リノベーションがあり、建替えでは立退きの要件も踏まえます。

建替えや売却の検討は、将来物件を引き継ぐご家族との話し合いや資産承継の計画とも切り離せません。

老朽化した建物への対応は、建物の状態や入居者との関係によって取るべき手立てが変わります。
本記事は一般的な考え方の解説であり、結論はご事情によって変わります。
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企業法務・不動産法務を中心とする総合法律事務所です。
家賃の滞納、退去に応じてもらえない、建て替えにともなう契約の解消、入居者や近隣とのトラブル、不動産を含む相続など、オーナー様の身近なお困りごとから、不動産取引の紛争まで幅広く対応いたします。
家賃滞納・明渡請求の分野では業界でも有数の実績があり、100名を超える弁護士が在籍。
司法書士・税理士・不動産鑑定士など他の専門家とも連携し、ひとつの窓口でご相談いただけます。

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担当弁護士 
弁護士 黒澤 隼
東京弁護士会所属。東北大学法学部卒業、東北大学法科大学院修了。
前橋地方検察庁での検察事務官勤務を経て法科大学院に進学し、弁護士となる。
不動産法務や遺言・遺産相続などを中心に取り扱い、特に不動産を軸とした紛争解決や契約実務に注力。その知見を活かし、企業法務にも強い意欲を持つ。
当事者双方の主張を丁寧に整理して実情に即した解決策を提示することを得意としており、感情的な対立が深刻化した案件においても、交渉段階で円満な合意成立へと導いた経験を有する。不動産法務や遺産相続において欠かせない税務分野の知識にも着目し、研鑽を重ねている。
依頼者とのコミュニケーションを通じて疑問や不安を残さない対応を徹底し、個別の事情に応じた最適解を導き出すことを常に心がけている。

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