土地にまつわるトラブルのなかでも特に多いのが土地の境界に関するトラブルです。今回は土地境界トラブルの解決に役立つ「土地の境界に関する基礎知識」から、よくあるトラブル例と知っておきたい「筆界特定制度」についてご紹介します。
土地の境界には「筆界」と「所有権界」がある
土地の境界は「筆界」と「所有権界」の2種類に分類できます。
筆界とは、法務局に登記されている土地の範囲を区画する線(境界)のことです。公的に定められた境界なので「公法上の境界」とも呼ばれています。
それに対して所有権界とは、土地の所有者の権利が及ぶ範囲で定められた境界です。筆界と違い、隣人同士の話し合いで自由に決めることができる境界で、それぞれが使いやすいように変更してよいものです。
たとえば、Aさんの畑の隣にBさんが家を建てる際、少しAさんの畑に建物がはみ出す場合は、Aさんに同意を得ればAさんの畑の一部を間借りして使うことができます。その部分については筆界上ではAさんの土地でも、所有権界上ではBさんが所有権をもっていることになります。
「筆界」と「所有権界」が一致しないケースは珍しくありません。土地の一部を譲渡したり、時効によって所有権を取得した場合など、歴史の中で曖昧になってしまうことがあります。
よくある土地境界トラブル
境界にまつわる「筆界」と「所有権界」について隣人との認識が異なっていると、トラブルに発展するリスクが高まります。
たとえば先程例に挙げたBさんが家を解体して土地を売ろうとしたときに、Aさんの土地まで売ってしまうといったことが考えられます。
また、境界が曖昧なままBさんの子どもが土地を相続した場合、その子どもはAさんから土地を借りていることを知らず、自分の土地だと思いこんでいる可能性が高いため、境界トラブルに発展する可能性があります。
土地の境界トラブルが発展すれば裁判になることも考えられます。もちろん、弁護士費用等の経費が必要になりますし、裁判所にも出向かなければいけません。
判決によっては損害賠償命令が下されたり、該当する土地の建造物や造作物を撤去するような命令が下されたりこともあります。裁判沙汰になれば金銭的にも時間的にも大きな損失を被ることになるのです。
そこで使える筆界特定制度
トラブルを未然に回避するためには、土地の筆界について明確にしておくことが重要です。そこで有効な手段となるのが、筆界をめぐるトラブルの予防や早期解決のために平成18年1月から始まった「筆界特定制度」です。
筆界特定制度は、土地の筆界の位置を特定する制度です。新たに筆界を定めるのではなく、実地調査や測量調査などを行い、もともとあった筆界を明らかにします。
申請できるのは、土地の所有者として登記されている人です。法務局の筆界登記官が、筆界調査員の調査結果や見解に基づき、土地の筆界を特定します。筆界調査委員は法務局長から任命され、土地家屋調査士や弁護士、司法書士といった法務局外部の専門家が務めます。
法務省が所管している公的な判断であるため、土地の境界を巡るトラブルをフェアに解決できます。また、「どこからどこまでが法的に自分の土地か」ということが明確にわかるので、トラブルを未然に防ぐことができます。
筆界特定登記官に筆界特定の申請を行うことで筆界特定を行ってくれるので、弁護士を立てて訴訟を起こす必要もありません。手数料は土地の価格によって決まりますが、たとえば申請人の土地とその隣の土地の合計額が5,000万円の土地でしたら手数料は9,600円なので、裁判と比較しても費用はかかりません。ただし、別途測量費用を実費で負担する必要があるのでご注意ください。
筆界特定申請手数料一覧
土地の合計価格(円) | 手数料(円) |
---|---|
0~4,000,000 | 800 |
4,000,001~8,000,000 | 1,600 |
8,000,001~12,000,000 | 2,400 |
... | ... |
40,000,001~48,000,000 | 8,800 |
48,000,001~56,000,000 | 9,600 |
56,000,001~64,000,000 | 10,400 |
... | ... |
参照元:土地の境界トラブルを裁判なしで解決を図る「筆界特定制度」 | 暮らしに役立つ情報 | 政府広報オンライン
筆界特定の流れ
ここからは申請から筆界特定までの一連の流れを解説します。
1. 筆界特定の申請を出す
まずは土地の所有者として登記されている人が法務局や地方法務局の筆界特定登記官あてに申請書を提出し、申請を行います。所有する土地を管轄する法務局や地方法務局の支局・出張所でも申請を受け付けています。
申請書のフォーマットは法務局のホームページでダウンロードできます。
2. 公告・関係人への通知
筆界特定の申請が受理されたら、申請があった旨が公告されます。同時に関係人(相手方。隣の土地の所有者など)に対して郵送などにより「筆界特定の申請が出されました」という通知がなされます。仮に筆界特定の申請があった旨の通知が届いた場合には、法務局の要請に従いましょう。
その後、申請人、関係人は意見書や土地に関する資料などを筆界特定登記官に対して提出することができます。意見書や資料が提出された旨も相手方に通知されます。
3. 資料収集・調査
筆界特定登記官や筆界調査委員が法務局・地方法務局や関係機関から筆界特定に必要な資料を収集し調査を行います。同時に、必要に応じて対象となる現状の状況を調べるため、実地調査が実施されます。
後に行われる測量調査の費用の概算見積もりが出ますので、その金額を申請人が予納します。もし予納されない場合は筆界特定が中止となりますのでご注意ください。
4. 対象になっている土地の測量
資料や現状調査の結果を踏まえて、筆界を特定するために対象となっている土地を測量します。
5. 申請人・関係者の意見聴取
改めて申請人や関係人が筆界特定登記官に意見を述べたり、改めて資料を提出したりする機会が与えられます。聴取には筆界調査委員も立ち会って意見を聞きます。
6. 筆界の特定
筆界特定登記官は筆界調査委員、申請人、関係人の意見を踏まえ、資料や現状、事情を総合的に考慮した上で、対象となっている土地の筆界を特定します。
7. 筆界特定通知・公告
申請人に筆界特定書の内容が通知されるとともに、筆界特定を行った旨の公告がされます。関係人にも通知が届きます。
以上が筆界特定の流れです。東京法務局では申請から筆界特定まで標準で9ヶ月程度かかるとしています。また、筆界特定をすると登記記録に「平成○年○月○日筆界特定(手続番号平成○年○月○日第○号)」というように、筆界特定を行った旨が記載されます。
なお、筆界特定の結果に不服がある場合は裁判所に「筆界確定訴訟」を起こすことができ、裁判によって新しい筆界が定められます。
まとめ
筆界特定制度を使えば、裁判を起こすことなく、公的に筆界が明らかになります。現在土地に関するトラブルを抱えている方だけでなく、トラブルを未然に防いだりリスクを減らす効果も期待できますので、ぜひ利用してみてください。