国土交通省から2018年地価公示が発表されました。全体の傾向や都市圏ごとの傾向、都市と地方の比較などについて去年と比較しつつ、今後の不動産価格の見通しについて解説していきます。
この記事で学べること
2018年、全国の地価変動の傾向
三大都市圏(東京、大阪、名古屋)の傾向
地方四市以外の傾向
2018年、全国の地価変動の傾向
- 三大都市圏とは、東京圏・大阪圏・名古屋圏を指します。
- 地方圏とは、三大都市圏を除く地域を指します。
- 地方圏(地方四市)とは、北海道札幌市、宮城県仙台市、広島県広島市、福岡県福岡市を指します。
- 地方圏(その他)とは、地方圏の地方四市を除いた市町村の区域を指します。
用途別の傾向
住宅地
好景による雇用環境や所得の改善に加え、低金利による住宅需要の高まりで、全国平均としては10年ぶりに上昇に転じました。
商業地
インバウンドの増加や再開発事業によって店舗やホテルの建設ラッシュが続いていることと、オフィス需要の高まりが要因です。
それに加えて金融緩和で資金調達環境が改善したことで、投資家による不動産投資意欲の高まりも拍車がかかっており、都市圏を中心に地価が上昇しています。
工業地
全国的に工業地の需要が高まっています。特にインターネット通販の普及から物流施設建設が盛んになっており、道路アクセスが良いエリアを中心に地価の上昇が見られています。
三大都市圏(東京、大阪、名古屋)の傾向
三大都市圏(東京、大阪、名古屋)では大阪圏が上昇から横ばいになった以外、住宅地、商業地、工業地のすべての用途で小幅な上昇となりました。地方四市でも去年に引き続き、すべての用途で上昇基調となっています。
東京圏の傾向
東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)においては住宅地、商業地、工業地とも5年連続でプラスとなりました。
住宅地では都心部を中心に高額マンション需要が高く、激化するデベロッパーの用地取得競争が地価上昇率の要因として考えられています。一方、都心から離れ、駅から遠い徒歩圏外の住宅地は下落傾向にあります。
商業地については、消費意欲の上昇を背景とした再開発による地域の活性化や商業施設の新設が地価上昇の要因となっています。加えて都心部ではグレードアップや事業拡張などを理由にオフィス移転需要が高まり、空室率が改善していることも地価の上昇を後押ししています。
名古屋圏の傾向
名古屋圏(愛知県)では住宅地は上昇。名古屋市中区、東区などの都心部の他、近年名古屋のベッドタウンとして開発が進んでいて、人口の増加率も著しい長久手市、日進市などの周辺地域でも地価が上昇しています。
商業地についても上昇傾向にあり、近年リニア新幹線の開業に伴い再開発が進んでいることから、特に名古屋駅周辺の地価の上昇が著しくなっています。
これまでは名古屋最大の繁華街、栄がある中区が名古屋のなかでも一番地価が高いエリアでしたが、近年では名古屋駅を擁する中村区が逆転しています。
大阪圏の傾向
大阪圏(大阪府、京都府、兵庫県、奈良県)の住宅地は総じて上昇傾向にあります。
そのなかで、住宅地地価が横ばいになっているのが大阪府です。浪速区や北区といった大阪市内の都心部では上昇しているものの、千早赤阪村、豊能町では下落。利便性が高い徒歩圏内の住宅地が上昇する一方で、利便性に劣る徒歩県外の住宅地は下落が続くという、住宅地の二極化傾向が鮮明になっています。
商業地については上昇率が大きく伸びています。引き続き堅調なインバウンドに伴って商業施設やホテル需要が伸びており、マンションやオフィス需要も高水準であることが要因です。また、堺市などの周辺エリアでもマンション需要が高まっており、地価が大きく上昇しています。
地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)の傾向
地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)でも4年連続の上昇で、上昇幅も拡大しています。都市部では軒並み地価が上昇傾向にありました。住宅地、商業地、工業地のいずれも、三大都市圏を上回る上昇率となりました。
商業地については5年連続の上昇。地方においてもインバウンドが好調で店舗やホテル需要が増していること、景気の好転によるオフィス需要の高まりが要因と考えられています。
仙台市は大幅な上昇
地方四市の中でも仙台市の上昇はめざましく、住宅地・商業地ともに大きく上昇を続けています。2015年に地下鉄東西線が開業して交通の利便性が向上したことと、2016年の仙台駅ビル新館の開業が要因として考えられています。
地方四市以外の傾向
地方四市以外の地方圏ではすべての用途で下落傾向が続いていて、都市圏と地方の二極化が進んでいると言えます。ただし、地方でも観光客や移住者を取り込むことで、地価が上昇している地域があります。
観光客や移住希望者を誘致できる特色がある地方は都市圏なみ、もしくはそれ以上の地価上昇が見込めます。一方で、特色がなく、交通の利便性などが悪い地域は、地価が下落するという地方間格差も明らかになってきています。
北海道
北海道ニセコ地域の倶知安町は住宅地の上昇率が全国1位。
もともとリゾート地として有名な町でしたが、2000年以降オーストラリアを中心にニセコの雪質がスキーヤーに人気となり、外国人観光客が急増。海外の富裕層を中心に移住する人も増え、2017年には倶知安町の8,973世帯のうち1,400世帯、15%が外国人とされています。
沖縄県
沖縄県も好調で、地価は5年連続で上昇していて、全国でも8位。
外国人観光客からの人気が高く、商業地需要が高まっています。また、沖縄移住の人気に伴い人口も増加し、住宅やアパート、マンション需要が高まっていることで、住宅地の地価も上昇しています。
今後の見通し
今後もインバウンドの増加や2020年の東京オリンピック・パラリンピック、2027年のリニア新幹線開業などに伴い、地価が上昇する可能性は十分にあると考えられます。
一方で、近年の地価上昇を「バブル」「天井に届いた」とする意見もあります。考えうるターニングポイントは東京オリンピックの後です。
前回の1964年東京オリンピックでも、開催前は競技場や交通網の開発やオリンピックを観戦するためのテレビ需要が高まるなど、好景気が続きました。しかし、オリンピックが閉幕した後は成長が一段落し、不況に転じたのです。
今回も東京オリンピックまでは建設ラッシュやインバウンド需要で地価の上昇は続くと思われますが、閉幕後に地価がどのように変動するかは注意深く見守る必要があるでしょう。
また、三大都市圏や地方四市においては地価が上昇傾向にありますが、それ以外の地方では下落傾向が続くという二極化も顕著になっています。
地方のなかでも、観光客や移住を誘致できる特色ある地域は地価が上昇していますが、そうでない地域は地価が下落しているという、地方間格差も拡がりつつあります。地方に関しては、都市にない独自の魅力を国内外にいかにして発信するかが、今後の鍵となりそうです。