マルチハビテーション(Multi-habitation)とは「マルチ(多様な)」と「ハビテーション(住居)」を組み合わせた造語で、「複数の住まいを持ち、目的に合わせて住居を行き来するライフスタイル」のことです。
一般的に「都心部で働いているために都会で暮らしている人たちが、出勤する必要がない週末や祝日には自然豊かな田舎の別荘で過ごす」といったスタイルを指します。
これは特に欧米諸国で取り入れられるライフスタイルです。2つの生活拠点を物理的に離すことで「仕事とプライベート」「オンとオフ」といった切り分けが実現しやすくなると考えられています。
マルチハビテーションのメリット
●都市生活では難しいプライベートな空間の確保が容易である
都市部やその近辺では、広いスペースの物件に住むのは難しいでしょう。しかし郊外や田舎であれば、比較的容易に広い間取りの物件を見つけることができます。
プライベートな書斎やアトリエ、広い庭でのガーデニングや畑など、都会の狭いスペースでは実現できなかった趣味を実現できます。
●仕事のパフォーマンスを落とさなくて済む
インターネットの普及やITテクノロジーの発達により、場所に左右されることなく一定のパフォーマンスで仕事を行うことができるようになってこようとしているのも、マルチハビテーションを実現できる大きな要因となっています。
●住まいを選ぶ上で、理想とする条件を叶えやすい
住まいを選ぶ際、これまでは通勤の便と環境の快適性のバランスを考える必要がありました。マルチハビテーションを導入すれば、都心の家は通勤重視、地方の家は居住性重視で選ぶことができます。「利便性」と「快適性」という条件の妥協点を探すのではなく、それぞれを追求できるようになります。
●将来の田舎暮らしのとき、スムーズに移行できる
老後の生活を田舎で送りたいと思う人が近年増えていますが、切り替えには大きな不安もつきものです。マルチハビテーションにより田舎に拠点を築いておけば、田舎暮らしに少しずつ慣らしていくことができますし、地域のコミュニティにもスムーズに溶け込めるという利点もあります。
●行動範囲が広がり、新たなコミュニティが広がる
生活拠点を増やせば、そこで新たなコミュニティを築いていくことになります。地域の人々との交流を通じて新しい出会いや発見を得ることで、今までとは違った価値観が生まれるでしょう。
マルチハビテーションの注意点
一つは二重生活によるコストの増加です。住居は安価に手に入っても、固定資産税やメンテナンス費用、家具や家電を揃えるための費用も必要になります。思いつきや勢いだけで実行するのではなく、きちんとした資金計画が大切です。
また、移動の手間も軽視されがちで、セカンドハウス購入後にトラブルとなりやすい問題です。住まい同士が遠すぎると移動が億劫になってしまい、結局一つの家で暮らすというケースが見られます。
実際にマルチハビテーションのメリットを享受できるか、きちんと継続していけるかを検証するために、最初は賃貸やホテルなどを利用しての長期滞在から始めるのがおすすめです。
空き家の増加によりサラリーマンでも手の届く価格に!
別荘暮らしといえば、これまでは比較的裕福な人しかできない贅沢でしたが、一般的なサラリーマンでも手が出せるようになりました。
なぜなら、空き家の増加により地方物件のストックが急増したためです。
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2013年には空き家率が13.5%となり、日本の物件の7軒に1軒が空き家という深刻な状況に陥りました。空き家はその後も増加し続けており、野村総研は2033年には30.4%が空き家になると予想しています。
これにより、過疎化が進む地方では、安価で購入できる住宅のストックが急増。一般的なサラリーマンでも比較的入手しやすい価格になってきたのです。また、都会に住む人と空き家とのマッチングを支援する自治体も増えており、物件探しも容易になってきました。
●東京と茨城県を行き来するIさん
稲作や畑の果樹栽培に興味のあった東京在住のIさんは、茨城県の空き家を100万円で購入。週末になると車を2時間半ほど走らせて通っています。
家財なども含めて買い取れたので、簡単な修理や掃除をするだけで住み始められたとのこと。東京では考えられないほど広い間取りの家で、妻と娘を連れて行くこともしばしばあるそうです。
●空き家情報の手に入れ方
空き家情報を手に入れたい場合、「空き家バンク」といったキーワードを含めて、ネットで検索するのが便利です。
「栃木県 空き家バンク」「飯山市 空き家バンク」など、気になる都道府県や市区町村と合わせて検索すると、空き家情報をまとめたウェブサイトが見つかると思います。
価格の他にも、間取りや写真などが掲載されている場合がほとんどで、資料請求や問い合わせ先も公開されています。
まとめ
田舎暮らしにあこがれつつも実行に移せなかった人は、マルチハビテーションというスタイルで都会と田舎の「いいとこ取り」をしてみてはいかがでしょうか。
空き家の急増という社会的な事情を追い風として、興味を持った人は自治体などが発信している空き家情報を集めてみるのもよいでしょう。