賃貸アパートは、どんなに良い環境を提供していても、入居者のライフスタイルの変化により退去は避けられません。しかし退去するからといって、ぞんざいな対応をしていては、満室経営は続かなくなるでしょう。
近年ではSNSなどを通じた口コミは、部屋探しの意思決定に与える影響が大きいです。特に悪い噂は、一度広まってしまうと食い止めることが難しいもので、今後の契約率にも影響が出るでしょう。
今回は円満に退去してもらうための予防策やポイントをご紹介します。
部屋の原状回復と敷金の関係
退去時に部屋を入居前の状態に戻す原状回復は、特にトラブルになりやすいです。どこまでが入居者の負担で、どこまでがオーナーの負担になるのか、その不明瞭さや認識のズレが争点となります。
原状回復の基本的な考え方
- 入居者の負担:故意や過失など入居者の責任で生じた損傷
- オーナーの負担:入居者が正しく使用していて損耗した分や経年劣化
※「入居者が正しく使っていたにもかかわらず、オーナーが修繕費を節約したいがために入居者に原状回復の費用を負担させる」といったことは認められません。
具体的にどのようにすれば、原状回復に関するトラブルは起きないでしょうか。
「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」を参考に!
東京都には「東京都紛争防止条例」という条例があり、賃貸契約を結ぶときにオーナーがあらかじめ入居者に対して原状回復に関する説明をすることが義務付けられています。
この条例に基づき、原状回復や入居中の修繕などの基本的な考えをまとめたものが「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」です。こちらを元に、トラブルの原因となりやすいポイントをご紹介します。
オーナーの説明責任
東京都紛争防止条例により、以下の4つの項目について説明する義務があり、必ず行わなければなりません。契約時に説明を行い、オーナーと入居者の認識のズレが出ないようにすることが、トラブルを防止するために重要です。
- 退去時における住宅の損耗などの復旧について
- 住宅の使用及び収益に必要な修繕について
- 実際の契約における賃借人の負担内容について
- 入居中の、設備などの修繕及び維持管理などに関する連絡先
例えば以下のように、勘違いされやすい項目は事例をもって説明するとよいでしょう。
- 日照などの自然現象によるクロスの変色、テレビや冷蔵庫などの背面の電気ヤケなどは、経年劣化に該当するためオーナー負担
- 引っ越し作業で生じたキズ、エアコンからの水漏れを放置した結果で生じた壁や床の腐食などは、入居者の過失になるため入居者負担
- 特約がある場合は、その内容を説明(例:一般的にハウスクリーニング費用はオーナー負担だが、当契約においては特約により入居者負担)
入居者の負担内容
「当該契約における賃借人の負担内容について」の項目に記載の上、オーナーと入居者が合意すれば、原状回復の原則と異なる特約を定めることができます。
ただし原状回復の原則を外れたものなので、以下の3つの条件が満たされて、初めて有効となります。
- 特約の必要性があり、かつ暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
- 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕などの義務を負うことについて認識していること
- 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること
特例の事例には、例えば以下のようなものがあります。
- ハウスクリーニング費用の一部(30,000円)を入居者負担とする。
- 畳の表替え費用の一部(一畳あたり5,000円)を入居者負担とする。
- 本物件は老朽化が著しいため、雨漏りやサッシの不具合など賃貸借契約締結の目的が達せられない場合を除き、入居者は建物の修繕要望を申し出ないものとする。
事前に入居者に義務の範囲外で修繕費用を負担することを伝えていなかったり、入居者の合意が得られなかったりした場合は、特約が無効となりますので注意してください。
退去予告
退去時には入居者はオーナーに「退去予告」をする必要がありますが、その行為自体を入居者が知らないケースもあります。事前に説明をしておき、トラブルを未然に防ぎましょう。
退去予告期限はオーナーが設定してよいのですが、その内容は間違いなく入居者に伝えます。「契約書には60日前と記載してあったのに、入居者は30日前で良いと思っていた」といった認識のズレが起きないように気をつけましょう。
明渡し時(立会のポイント)
退去を完了するには、オーナーの立ち会いが必要になります。原状回復費用の負担割合を相談するのが目的となりますので、部屋の荷物が全て撤去された状態で行い、床の傷やクロスの汚れなどを入居者と一緒に確認します。
明渡し時の立ち会いを管理会社などに任せるケースがほとんどかもしれませんが、費用負担の相談以外にも、以下の点についての確認も忘れず行いましょう。
- 入居者の引っ越し先の住所や連絡先。
- 電気・水道・ガス・インターネット等の使用停止手続きが済んでいるか。
- 入居者の持ち物や備品が残っていないかどうか。
- 設備として取付けられていた物品がなくなっていないか(入居者がうっかり持っていってしまうケースがあります)。
退去時のトラブルを防ぐには入居時が肝心
不動産会社や管理会社に仲介を依頼するときも、手数料やイメージで選びがちですが、入居者への説明や契約手続きへの配慮や丁寧さを見極めながら選びましょう。
入居者が「良い家だったな」と満足してもらうことが満室経営につながります。誤解や認識漏れがないよう、入居者との合意を取りながら、契約時から退去時まで丁寧に対応するようにしましょう。
特集:満室あってのアパート経営 - 「満室経営」のポイントとは?
第1回:アパートオーナー必見!内見から契約への成約率を上げるポイントとは?
第2回:アパート満室経営のポイント!トラブルを回避するための入居時審査のチェック項目
第3回:アパート経営を持続するポイントは入居中のケアにあり!
第4回:アパート満室経営のポイントで見落としがちな退去時のケア。ガイドラインでトラブルを防止!