民泊に関する規制緩和の流れと現状

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インバウンド需要の拡大とIT技術の進展により、急速な広がりを見せている民泊ビジネス。「施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業」を行うためには、原則として保健所で営業許可を受けることが必要となります。しかし、現状では、旅館業の許可を得ないまま営業されるケースも多く、急速な違法民泊の増加に取締りが追いついていない状態です。

他方、民泊には、将来増加が予想される空き家の有効活用や、日本の観光立国の推進といったプラスの役割も期待されています。

そこで政府は、違法民泊の是正や民泊の健全な普及等の観点から、これまでに、国家戦略特区法に基づく民泊制度の創設と旅館業法の許可要件の緩和を行いました。

1. 国家戦略特区法に基づく旅館業法の特例

国家戦略特別区域制度とは、指定されたエリア(特区)に限って実験的に規制緩和を認める制度であり、その規制緩和策の1つとして旅館業法の特例が設けられています。

本制度(いわゆる特区民泊)では、最低滞在日数以上(7〜10日の範囲で各自治体の条例で定める)連泊で他人を滞在させる事業を行う場合、特別に旅館業法の適用除外となり、旅館業法の営業許可は不要となります。

代わりに、国家戦略特区法に基づく認定を受ける必要があり、認定要件には、各居室25㎡以上であり、台所、浴室、便所及び洗面設備を有すること等が設けられています。最低滞在日数は最短でも6泊7日以上であり、原則として中途解約は認められません。

また、そもそも自治体が「1. 本特例を活用するための区域計画を策定し、内閣総理大臣の認定を受けること」「2. いわゆる民泊条例を成立させること」が必要であるため、どこの地域でも自由に実施できる訳ではありません。

現時点で特区民泊が実施できるのは、東京都大田区(2016年1月〜)と、大阪府(4月〜)に限られます。また大阪市では、今秋より特例の運用が開始されることになっています。

特区民泊は、6泊7日以上の最低滞在日数要件が、短期宿泊需要を見込んだ事業者のニーズと合わないため、今一つ申請件数が伸び悩んでいます。しかし、この最低滞在日数や施設構造要件をクリアすれば1年中営業可能であり、また、既存の住宅を転用しやすい制度であるため、旅館業の営業許可がとれない(用途変更が難しい)既存住宅の活用に優れていると考えます。

2. 簡易宿所営業の要件緩和

民泊の営業許可取得を促すため、本年4月、厚生労働省は旅館業法上の営業形態の1つである「簡易宿所営業」の許可要件を緩和しました。

簡易宿所は、カプセルホテルのような一部屋を多人数で共用する施設の構造を想定しているため、従来は客室の延床面積は33㎡以上必要とされていました。厚生労働省は、宿泊者の定員が10人未満の場合、3.3㎡×定員数の面積があればよいという要件の見直しを行いました。また、条例でフロント等の設置義務が定められている自治体に対しても、このような定員10人未満の小規模施設については、条例改正や弾力的な運用を行うことを要請しました。

簡易宿所の営業許可を取得すれば、1年中、短期の宿泊サービスの提供が可能です。長期継続的な事業として民泊をとらえている場合にもっとも適した形態であると考えられます。

他方、簡易宿所の営業許可を取得するためには、建築基準法や消防法上も宿泊施設としての基準を満たす必要があるため、既存建物を簡易宿所に転用することが難しい場合があります。また、住居専用地域に存在する建物は、原則として宿泊施設としては利用できません。

次回は間もなく始まる民泊新法について解説します。