「卵は1つのかごに盛るな」という投資の格言があります。これは、「複数の卵を1つのかごに入れておくと、落としたときにすべて割れてしまう」、つまり「リスクは分散させなければならない」ということを意味しています。
どのようにすればリスクを減らすことができるか、という課題は、投資に挑戦する際に必ず考えなければならない大きなテーマです。今回は、投資に役立つリスク管理の基礎をお教えしましょう。
リスクとリターンの意味
投資では、「ハイリスク・ハイリターン」という言葉を使うことがあります。これは、リスクが高く、リターン(利益率)も高い投資対象を指す言葉です。これとは逆に、リスクが低く、リターンも低い投資対象は「ローリスク・ローリターン」と呼ばれます。
投資理論でいう「リスク」とは「危険」のことではない
ここでいう「リスク」という言葉の意味は、私たちが普段使っている「危険」という意味合いとは異なります。投資理論における「リスク」とはリターンの振れ幅、あるいは変動幅のことを意味します。
リターンは一般に、期待値で表現されます。
「期待値」とは、「ある取引を行ったとき、その結果として得られる損益の平均値」のこと。当たれば1,000円もらえるクジがあり、10回引けば1回当たる場合、クジを1回引いたときの期待値は100円(1000円×10分の1)となります。
例えば、リターン(利益率)の期待値が同じ10%だとしても、そのリターンの分布が、ときには-10%であったり30%であったりする場合と、8%から12%の範囲に収まっている場合ではリスクの度合いが異なります。前者のように振れ幅が大きい場合を「リスクが高い」と表現し、後者のように振れ幅が少ない場合を「リスクが低い」と表現します。
「ハイリスク・ハイリターン」は本当か
上記の例では、リターンの期待値は同じ10%です。しかし投資に精通している人は、期待値だけでは判断しません。同じ期待値であれば、リスクが少ない方を選択する傾向があるからです。
ローリスクでハイリターンという投資対象もない訳ではありませんが、それはインサイダー情報(内部情報)を握っているなどの情報格差がある場合のみ。基本的にリスクとリターンは相関するようになります。
リスクを減らす方法とは
リスクをコントロールする主要な方法としては「リスクを分散させる方法」、「リスクを他人に負担してもらう方法」、「デリバティブなどを活用する方法」の3つが挙げられます。
以下では、それぞれの方法について見ていきます。特に1つ目のリスクを分散させる方法は、リスク管理において重要な考え方です。
リスクを分散させる方法
1つの投資対象に資金を集中させるのではなく、複数の投資対象に分散させることでリスクを減少させられる可能性があります。
例えば「リターン10%でリスク10%のA株式」と「リターン5%でリスク10%のB株式」があったとします。A株式とB株式を50%ずつ保有した場合、リターンは単純平均の7.5% ((10% + 5%) ÷ 2)になることが期待できますが、リスクは単純平均の10%よりも低くなる可能性があります。
A株式とB株式がまったく同じ値動きをする場合を除いて、通常はリスクが低くなります。もしA株式とB株式がまったく反対の値動きをする銘柄であれば、リスク0となる組み合わせもあり得ます。そういった意味で、「卵は1つのかごに盛るな」という格言は理論的にも正しいということができるのです。
リスクを他人に負担してもらう方法
リスクをコントロールする方法の2つ目として、費用を払うことで他人にリスクを移転するという方法が考えられます。保険の利用などがこの例にあたります。
例えば、海外への株式投資や不動産投資においては、戦争その他の不可抗力によって発生した損失をカバーする「海外投資保険」などの商品もあります。
デリバティブなどを活用する方法
リスクをコントロールする方法の3つ目としては、デリバティブ(金融派生商品)を活用するという方法が考えられます。
デリバティブとは、投資の対象資産となる現物(株式や債券、金利、外国為替など)そのものではなく、現物の将来の価格を売り買いしたり、将来の価格で売買できる権利を売り買いしたりする契約を指します。
例えば「先物取引」もデリバティブのひとつ。これは将来の取引を現時点で行う取引で、価格や数量を現時点で決めて、将来のある時点になったら実際の取引を行います。「小麦が値上がりしそうだから、1年後の小麦を100円で買います」というような取引を指します。
その他のデリバティブには「オプション」「スワップ」と呼ばれるものもあり、FXに関するものであればFX業者、株式などに関するものであれば証券会社を通じて取引できます。
オプション
ある原資産について将来の一定期間後に、ある値段で取引できる「権利」を売買するもの。
スワップ
「交換する」という意味で、性質の異なる支払い義務などを交換する取引をいう。金利を対象とする「金利スワップ」や、為替相場を対象とする「通貨スワップ」などが代表的。
たとえば「せっかく配当がたくさん出る米国株式を持っているのに、今後、円高ドル安になって配当金が目減りしてしまいそうな場合」を考えてみましょう。
この場合、円高ドル安になれば利益が出るような為替デリバティブを契約しておくと、利益と損失が相殺され、ドルが高くなっても安くなってもトータルの利益が安定することになります。
デリバティブには様々な種類のものがあります。これらをうまく組み合わせるのは、リスクを回避するための手段として有効です。
まとめ
以上のように、リスクとリターンの関係を理解することで自身の投資方針やリスク管理に役立てることができます。投資理論の中でも特に基礎となる重要な部分ですので、よく理解した上で実際に投資する際にも役立てていただければと思います。