障害者差別解消法の基礎知識と不動産仲介業が考慮するべき具体例まとめ

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2016年4月1日、完全施行に

2006年の障害者権利条約の国連採択と署名を受け、日本ではこれを批准するための国内法の整備が続いてきました。2011年の障害者基本法の改正もその一つです。

その基本法の差別禁止の内容を具体化するものとして「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(略称:障害者差別解消法)」が2013年に制定され今年の4月1日に完全施行となりました。

法律はその目的を「全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害者差別の解消を推進すること」と明記しています。

差別的取り扱いの禁止と合理的配慮の提供

「障害者差別解消法」が求めるのは、障害を持つ人に対する「不当な差別的取扱いの禁止」と「合理的配慮の提供」です。

「不当な差別的取扱いの禁止」とは、国・都道府県・市町村などの役所や、会社やお店などの事業者が、障害のある人に対して、正当な理由なく障害を理由として差別することを禁止するというもの。

また、「合理的配慮の提供」とは、同じく国・都道府県・市町村などの役所や、会社やお店などの事業者に対して、障害のある人から、社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられたとき、負担が重すぎない範囲で対応すること(事業者に対しては、対応に努めること)とされています。

「バリアを取り除くための何らかの対応」とは、言語(手話を含む)、点字、拡大文字、筆談、実物を示すことや身振りなどのサインによる合図、触覚など様々な手段により意思が伝えられることをいいます。通訳や介助者など、障害のある人のコミュニケーションを支援する人のサポートにより本人の意思が伝えられることも含まれます。

現在、役所や金融機関、病院などの受付窓口に、筆談用の道具や難聴者でも聞き取りやすい音声を発する「会話支援スピーカー」などが設置されているのを見た人もあるかもしれません。これらも新法を考慮した対策の一つです。

不動産仲介業で考慮すべきこと

では、アパート経営や不動産仲介などの場面で、どのようなことが問題となってくるのでしょうか? 国土交通省のまとめに沿ってご紹介します。

不動産仲介業における差別的取扱いの具体例

  • 物件一覧表に「障害者不可」と記載する。
  • 物件広告に「障害者お断り」として入居者募集を行う。
  • 宅地建物取引業者(以下「宅建業者」)が、障害者に対して、「当社は障害者向け物件は取り扱っていない」として話も聞かずに門前払いする。
  • 宅建業者が、賃貸物件への入居を希望する障害者に対して、障害(身体障害、知的障害、精神障害(発達障害及び高次脳機能障害を含む)その他の心身の機能の障害(難病に起因する障害を含む)があることを理由に、賃貸人や家賃債務保証会社への交渉等、必要な調整を行うことなく仲介を断る。
  • 宅建業者が障害者に対して、「火災を起こす恐れがある」等の懸念を理由に、仲介を断る。
  • 宅建業者が一人暮らしを希望する障害者に対して、一方的に一人暮らしは無理であると判断して仲介を断る。
  • 宅建業者が、車いすで物件の内覧を希望する障害者に対して、車いすでの入室が可能かどうか等、賃貸人との調整を行わずに内覧を断る。
  • 宅建業者が障害者に対し、障害を理由とした誓約書の提出を求める。

不動産仲介業における合理的配慮の提供の具体例

  • 障害者が物件を探す際に、最寄り駅から物件までの道のりを一緒に歩いて確認したり、1軒ずつ中の様子を手を添えて丁寧に案内する。
  • 車いすを使用する障害者が住宅を購入する際、住宅購入者の費用負担で間取りや引き戸の工夫、手すりの設置、バス・トイレの間口や広さ変更、車いす用洗面台への交換等を行う場合、必要な調整を行う。
  • 障害者の求めに応じて、バリアフリー物件等、障害者が不便と感じている部分に対応している物件があるかどうかを確認する。
  • 障害者の状態に応じて、ゆっくり話す、手書き文字(手のひらに指で文字を書いて伝える方法)、筆談を行う、分かりやすい表現に置き換える等、相手に合わせた方法での会話を行う。
  • 種々の手続きにおいて、障害者の求めに応じて、文章を読み上げたり、書類の作成時に書きやすいように手を添える。

できることから始めましょう

これまでも、障害を理由に賃貸住宅への入居を断る行為は、人権侵害にあたるとして行政機関による指導の対象になっていました。新たな法律の施行により、現在これは明確に違法と認定されることになりました。

なお、「合理的配慮」については、国の行政機関や地方公共団体などは「~しなければならない」という表現で明確に義務化されていますが、民間事業者に対しては「~するように努めなければならない」と努力義務にとどめられています。また、違反した場合の罰則も取り決められていません。しかし、だからといって何もしないというのではなく、法律の趣旨をよく理解し、できることから始めることが必要です。

次のようなことは、比較的容易に取り組めることであり、企業の社会的な責務を果たすという点からも、ぜひ実施していきたいことです。

すぐにでも取り組めること

  • 物件案内時に段差移動のための携帯スロープを用意する。
  • 物件案内時に車いすを押して案内をする。
  • 物件案内の際、肢体不自由で移動が困難な障害者に対し事務所と物件の間を車で送迎する。
  • 車いす使用者のために、車いす専用駐車場を確保する。
  • 物件のバリアフリー対応状況が分かるよう、写真を提供する。

できることから、ぜひ始めてください。

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