民泊サービスと旅館業法との関係、そして抱える課題

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民泊サービスは、本来、旅館業法の規制を受ける

日本の現行の法規制の下では、民泊サービスの提供には、旅館業法上の許可が必要とされています。ここでは、厚生労働省が公表している「民泊サービスと旅館業法に関するQ&A」を抜粋して見ていきましょう。

Q1 旅館業とはどのようなものですか。

A1 旅館業とは「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」と定義されており、「宿泊」とは「寝具を使用して施設を利用すること」とされています。そのため、「宿泊料」(Q9参照)を徴収しない場合は旅館業法の適用は受けません。

Q4 個人が自宅の一部を利用して人を宿泊させる場合は、旅館業法上の許可が必要ですか。

A4 個人が自宅や空き家の一部を利用して行う場合(民泊サービス)であっても、「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」に当たる場合(Q1参照)には、旅館業法上の許可が必要です。

Q9 「宿泊料」ではなく、例えば「体験料」など別の名目で料金を徴収すれば旅館業法上の許可は不要ですか。

A9 「宿泊料」とは、名目だけではなく、実質的に寝具や部屋の使用料とみなされる、休憩料、寝具賃貸料、寝具等のクリーニング代、光熱水道費、室内清掃費などが含まれます。このため、これらの費用を徴収して人を宿泊させる営業を行う場合には、旅館業法上の許可が必要です。

このように、宿泊料(名目の如何を問わない)を受けて人を宿泊させる営業であれば、利益稼得を目的として自宅以外の住宅を提供する「家主不在型」の民泊はもちろん、個人が自宅の一部を利用して人を宿泊させる「ホームステイ型」の民泊であっても、旅館業法上の許可が必要となります。

民泊サービスが抱える様々な問題点

現在、日本で民泊マッチングサイトを通じて提供されている民泊サービスの多くは、旅館業法上の許可を得ない違法営業の状態にあります。行政の監督下にない違法な民泊の急増により、次のような様々な問題点が懸念されています。

衛生管理の懸念

民泊ビジネスを規制する旅館業法は、業務の適正運営を確保し、公衆衛生に寄与することを目的の一つとしています。そのため、宿泊施設の厳格な衛生管理基準(例:居室、トイレ、浴室等の構造設備基準や、換気、採光、清潔保持等の措置基準)を定めています。ところが、旅館業法の許可を受けてない民泊施設は行政の監督が及ばず、旅館業法の定める衛生管理基準が担保されません。民泊施設において感染症等が発生した場合、公衆衛生が害されるリスクが懸念されています。

防災管理

私たちが一般的に利用するホテルや旅館は、建築基準法上は特殊建築物「ホテル・旅館」に分類され高い耐火性能等が要求されています。具体的には、燃えにくい建築材料を使う、火災が起きたときにそれを周囲に知らせる自動火災報知設備や停電時にも避難口を示すための避難誘導等の設置、広めの廊下幅の確保等、様々なきまりがあります。災害発生時、慣れない場所・建物内に宿泊するがスムーズに避難できるようにという配慮によるものです。ところが、民泊施設では一般的な戸建住宅や共同住宅(アパートやマンション)がそのまま宿泊施設として提供される場合が多いため、災害発生時に宿泊者が逃げれてしまうなどの懸念があります。

テロ等犯罪への悪用の懸念

旅館業法では、宿泊施設の営業者に宿泊者名簿の備付け(宿泊者の氏名、住所、職業その他の事項を記載)、保存することを要求しています。また、必要に応じて名簿の提出や報告、施設への立入検査権限を行政に与えているので、問題のある営業施設に対して適正な指導・監督が可能です。しかし、民泊施設にはそのようなルールがないため、不審者が宿泊するのではないか、テロや犯罪に利用されるのではないかという懸念があり、特に施設の近隣住民から不安の声が広がっています。

近隣住民と宿泊者(ゲスト)間トラブルの懸念

気のおけない仲間との旅行......。解放感や特別感で気が緩み、夜中まで大騒ぎしてしまった、という経験がある人も多いのではないでしょうか。特に外国人旅行客者の中には日本とは異なる生活習慣や文化を持つ場合もあるため、騒音やゴミ出しに関するトラブルが多く見受けられます。アパートやマンションの様に、多くの人が共同生活を営む建物の1室で民泊サービスを提供する場合、住民同士との距離が近いため、事態はより深刻になりがちです。

 

このように、様々な問題を抱える無許可の民泊ビジネス。しかし、旅館業法上には、許可取得にあたり一定の面積要件があるなど、普通の住宅での許可取得は難しい状態でした。許可取得が進まないと、民泊ビジネスが適切に規制されない状態が放置されてしまいます。

そこで、政府は民泊ビジネスに関する規制緩和として、「1. 国家戦略特区における民泊制度の創設」「2. 旅館業法の許可要件の緩和」「3. 民泊ビジネスを規制する新たな法律の制定」などの、大胆な法制度の改革に取り組んでいます。

次回は、民泊に関する規制緩和のうち、既に施行された「1. 国家戦略特区法に基づく旅館業法の特例」と、「2. 簡易宿所営業の許可要件の緩和」について解説します。