東京都で空室率の改善が続く
賃貸住宅市場の市況レポートを見ると、東京都では賃貸アパートの空室率の着実な改善が目立ちます。関東近県では逆に空室率の拡大が見られるので、改善傾向は東京都や一部の大都市圏の傾向と考えておく必要がありますが、都市部の今後のトレンドを示唆するものということはできるでしょう。
賃貸住宅市場が、都市部でやや活発に動き出している背景には、いくつかの要因があります。
ひとつは地価です。ご存じのように2016年1月に国土交通省から発表された公示地価では、住宅地、商業地とも長年続いた下落に歯止めがかかり、全国・全用途平均で0.1%の上昇となりました。特に東京都区部の住宅地では前年比2.8%、同じく都区部の商業地で4.8%の上昇が見られています。地価上昇に伴い、新築分譲マンションや土地付き分譲住宅の価格も上昇、新築住宅の購入を諦め、中古住宅を購入してリノベーションをしたり、しばらくは賃貸アパートで、と考える人が増えています。
賃貸住宅の空室率の推移(東京都全域)
空室率TVI(ポイント)※ | |
---|---|
2014年10月期 | 12.46 |
2015年3月期 | 12.32 |
2015年10月期 | 11.92 |
2016年3月期 | 11.57 |
※空室率TVIはTASが独自開発した賃貸住宅の空室の指標
データ提供:アットホーム株式会社、 分析:株式会社タス
家賃相場もやや上昇?
賃貸アパートへのニーズが強まる中、東京圏では家賃相場も上昇傾向にあるようです。国土交通省の資料によれば東京圏の一部の賃貸マンションの家賃相場はワンルーム、1LDK~2LDK、2LDK~3LDKのいずれにおいても2013年の3月期を底に上昇に転じ、現在もその傾向が続いています。
東京圏の賃貸マンションの家賃相場(平均)の推移
年月 | ワンルーム | 1LDK~2LDK | 2LDK~3LDK |
---|---|---|---|
2012年3月 | 70,389 | 105,660 | 132,520 |
2013年3月 | 70,357 | 105,349 | 132,220 |
2014年3月 | 70,914 | 106,034 | 133,083 |
2015年3月 | 71,840 | 107,558 | 133,751 |
2015年9月 | 71,946 | 107,776 | 133,946 |
資料:国土交通省
礼金や敷金はこれからどうなる?
家賃に関連して気になるのは礼金や敷金をめぐる動向です。賃貸住宅市場が貸し手市場から借り手市場へと大きく変わりはじめると同時に、空室対策として「礼金なし、敷金なし」という物件が増えていきました。礼金については、現在は首都圏の約半数が1カ月分程度と定め、首都圏の平均では0.7カ月。ゼロとしているケースもあります。今後も、趨勢(すうせい)としては減っていくと思われますが、新築物件や競争力のある物件では「礼金2カ月」としているところもあり「物件の競争力次第」という見方もできるでしょう。そもそも礼金をどうするかは、家賃と一体に考え、集客・運営戦略の中で判断することが必要です。礼金をゼロとして借り手にとっての初期費用を抑え、借りやすくするという判断もあり、逆に礼金(契約更新料)を一定に確保しながら、月々の家賃を抑える、という判断もあります。いずれにしても、長期の事業戦略の中で判断することになります。
首都圏の礼金の平均月数
2009年下期 | 0.94 |
2010年下期 | 1.21 |
2011年下期 | 0.90 |
2012年下期 | 0.98 |
2013年下期 | 0.86 |
2014年下期 | 0.76 |
2015年上期 | 0.80 |
※日本賃貸住宅管理協会「日管協短観」より
敷金については年々減少を続け、家賃の「1カ月分」とするのが大きな傾向です。もともと敷金は、家賃の滞納や物件の破損があった場合などに備えて、その費用を担保するために入居時に賃借人から預かるもので、退去時には必要な費用を差し引いて返却するというのが一般的でした。しかし、1998年に国土交通省が定めた「原状回復のガイドライン」(2004年改訂)などにおいて、通常の損耗や経年劣化による破損等では借り手に原状回復の義務がないとされ、それ以降、敷金は1カ月程度を預かり、退去時には全額返還、またはクリーニング費用のみ差し引いて返還するのが大勢となっています。
首都圏の敷金の平均月数
2009年下期 | 1.37 |
2010年下期 | 1.31 |
2011年下期 | 1.18 |
2012年下期 | 1.12 |
2013年下期 | 1.18 |
2014年下期 | 1.15 |
2015年上期 | 1.10 |
※日本賃貸住宅管理協会「日管協短観」より
新たなライフスタイルに応える意味も担う
総人口が減少に転じるなど、長期的に見れば住宅需要は全体として縮小すると見られますが、東京圏などの大都市圏の中心部に限っていえば、賃貸アパートのニーズは底堅いものがあります。特に高齢者世帯の増加、単身で働き続ける女性の増加、十分な収入や住宅手当の確保しにくい非正規就労者の拡大などは、賃貸アパートのニーズを支えていくでしょう。また、経済的な理由だけでなくライフスタイルとしても、好きな街に気軽に自由に暮らすことを選択する「意識的な賃貸選択層」も東京圏を中心に都市部で拡大していくと見られます。
土地活用や安定収入、相続税対策などとして話題になることが多い賃貸住宅経営ですが、都市の新たなライフスタイルに応え、今までにない魅力的な住環境を提供するという社会的な役割も担うものといえるのではないでしょうか。