賃貸住宅を受け継ぐ世代のための遺言活用法とは

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遺言は使い方次第で、後の世代に不動産をうまく承継することができます。しかし、使い方を誤ると相続人の間で争う原因になってしまうこともあります。

今回は、遺言とはそもそもどのようなものかを解説するとともに、賃貸住宅を受け継ぐ世代が遺言をどのように活用すれば有用か紹介したいと思います。

遺言とはどのような制度か

遺言とは、「遺言書」などのタイトルで一定の要件に従って作成された文書を指します。自身が亡くなった後のことについて決定しておくものですので、基本的には故人の思いを実現する方法という性格を持ちます。

たとえば、「財産のうち不動産については長男に、預金や株式については次男に」というように、自由に決めておくことができます。場合によっては家族以外の誰かに遺産を譲りたいという意思も遺言に織り込むことができます。

自分の財産の最終的な処分という意味を持つので、本人の意思が最大限尊重されたものということができます。

一方、将来、財産を受け継ぐ世代にとっても、親の世代にきちんと遺言を作ってもらうことで、相続人間での争いを防止することができます。機会を設けて、家族でお互いの思いを話し合う時間を作り、それを形にしておくことはとても大切です。

遺言を作成する方法

遺言には大きく分けて2つの種類があります。それは「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」です。

「自筆証書遺言」は自分の手書きで作成する遺言書です。パソコンなどで作成するのではなく、全文を手書きにしないと法的な効力がなくなるので注意が必要です。

また、作成日付や署名捺印が必要となるほか、遺言に従って実際に手続を行ってくれる責任者として「遺言執行者」を指定したり、遺言書を封入して押印したりするなど所定の要件を満たす必要があります。

これに対して「公正証書遺言」は公証役場で公証人に作成してもらう遺言です。本人が証人2名以上とともに公証役場に出向き、自身の意向を公証人に伝えた上で、公証人がその意向を反映した遺言の公正証書を作成してくれます。

遺言で注意すべきこと

「自筆証書遺言」は、紙とボールペンがあれば自分だけで作成できるという手軽さがあります。また、公証役場での手続や費用がいらないという点もメリットです。

しかし、作成方法に不備があると遺言が無効になってしまうという大きなデメリットもあります。遺言書自体を紛失してしまうリスクや遺言者が亡くなった後に遺言書が発見されないというリスクもあります。遺言書は、被相続人が亡くなった後に開封していない状態で家庭裁判所に持って行き、「検認」という手続を経て初めて効力を持ちます。

このように、自筆証書遺言では、遺言を作成する段階でも、執行する段階でも、不備のないように細心の注意が必要となる点もデメリットといえるかもしれません。

「公正証書遺言」は、公証人という専門家が遺言を作成してくれるので、法的な効力には不安がありません家庭裁判所の検認手続も不要となっています。また、公証役場で原本が保管されますので、遺言者が保管している正本を紛失したとしても再発行が可能です。

しかし、公証人の手数料など、費用が発生することがデメリットとなります。また、証人が2名必要であるため、遺言の内容が漏洩するリスクがないとはいえません。

遺言の上手な活用方法

遺言活用のポイントについて、事例を交えて紹介したいと思います。

【Aさんの場合(自筆証書遺言を利用)】

Aさん(45才/会社員)は父親(75才)から賃貸用の区分所有マンション(評価額5,000万円相当)を受け継ぐ予定でした。Aさんは長男で、Aさんの弟Fさんも法定相続人となります。相続財産は賃貸不動産以外にも預金(3,000万円相当)、上場株式(3,000万円相当)などがあります。

預金や株式は分割して相続できるものの、区分所有マンションは分割しにくいという特徴があります。

そのため、区分所有マンションをFさんではなく、Aさんが受け継ぐという父親の意思を文書で明確にしておくことが有用と考えられました。また、区分所有マンションだけを相続してしまうと、相続税の納税資金に困るので、Aさんはさらに一定額の預金も相続する必要がありました。

これらを事後的に遺産分割協議で取り決めるとなるとうまく話がまとまらない可能性もあります。そこでAさんは、父親が元気なうちに家族会議を開いて、スムーズに相続を進めるためにはどのような形が良いのか話し合うことを提案しました。

父親もそれに賛同し、遺言書の作成を始めました。家族での話し合いの結果を考慮しながら作成するため、書き直しや加筆が何度も入る可能性を考慮し、「自筆証書遺言」での作成に決めました。

このおかげで、Aさんは納税資金にも困ることなく、スムーズに区分所有マンションを相続し、賃貸経営を受け継ぐことができました。

【Bさんの場合(公正証書遺言を利用)】

Bさん(47才/パートタイム)は父親(77才)から賃貸用アパート1棟(評価額6,000万円相当)を受け継ぐ予定です。Bさんは長女であり、Bさんの兄Gさん(長男)も法定相続人となります。相続財産は賃貸不動産以外にも預金(2,000万円相当)、保険商品(1,500万円相当)などがあります。

アパートをBさんに相続させることは、父親からそれとなくBさんに伝えられています。しかし、長男のGさんはその意向をよく知りません。このままではGさんが「アパートは当然、長男である自分が相続する」という思い込みを持っている可能性があります。

そこで、Bさんは父親に意向を形にしておくことを提案しました。所持している財産の種類と分与先が多岐に渡るため、遺言書の作成は慎重に進めるべきと判断。有効な遺言書を確実に作成するため、公証役場で公正証書遺言を作成してもらうことにしました。

遺言には、相続の具体的内容だけでなく、自身の思いや説明したい事柄などを「付言事項」として自由に記載することができます。そこで、父親はBさんにアパートを相続させる理由として「Bさんが普段から献身的に自分の介護をしてくれている」ことを明記し、Gさんに対しても「どうか不公平に思わないで欲しい」という旨を付言しました。

このおかげでBさんとGさんの間ではいさかいなども起こらず、協力しあって相続手続を進めることができました。

まとめ

以上のように、遺言を活用することで故人の思いを尊重しつつ、相続人間の争いを防止することもできます。そのためには、遺言の種類や法的な性格などをよく理解し、納税資金のことなども踏まえた上で遺言を作成することが重要です。

とはいえ、やはり普段から親子でいかにコミュニケーションを取っているかが大切ではないでしょうか。

特集:賃貸住宅を受け継ぐ世代がやっておくべきこと

第1回賃貸住宅を受け継ぐ世代が対処すべき問題とやっておくべき対策
第2回賃貸住宅を受け継ぐ世代のための遺言活用法とは
第3回賃貸住宅を受け継ぐ世代のための相続税対策とは
第4回賃貸住宅を受け継ぐ世代のための賃貸住宅経営概論

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