ひとつ上の相続対策・アパート経営のポイントは「建物の名義」

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相続対策のため、更地に賃貸アパートを建てることに。
その場合、誰の名義で建築したら良いのでしょうか。名義は将来の税金に大きく影響します。
そのため様々な条件をトータルに見ながら決める必要があると言えます。
それでは賃貸アパートの名義人を決めるためのポイントについて見ていきましょう。

1.相続税の引き下げをメインに考えた不動産名義人の決め方

不動産名義人は一般的に、アパート取得の際、建築代金を誰がどのくらい負担したかによって決まります。
建築代金をひとりで全額負担した場合は、負担した人の単独名義で登記。複数の親族で負担し合う場合は、その負担割合によって登記上の名義人と持ち分割合を決定します。
実際の負担割合と登記上の持ち分割合が異なる時は贈与税が発生することも視野に入れる必要が出てくるので注意が必要です。

相続税引き下げを主な目的としているケースでは、土地所有者と同じ人を建物の名義人にすることで土地と建物の評価額を下げることが可能です。ただし、これにはメリットとデメリットがあります。

2.名義人によるメリット・デメリット

賃貸アパートが本人名義の場合

<メリット>

・土地と建物の評価額を軽減できる
・「小規模宅地の評価減」の適用を受けることで、賃貸用の敷地の場合、200㎡まで50%の評価減が適用される

例えば、路線価(宅地の評価額の基準となるもの)が30万円だとして、面積が300㎡の土地に賃貸アパートを建て、人に部屋を貸していたとしましょう(満室とします)。賃貸アパートの建築費は7000万円かかったとして、この賃貸アパートおよび敷地を相続したとします。
このケースの場合、建物と土地という2つの観点から、相続対策につながります。

(1)建物の評価を引き下げることが可能

一般的に、貸家アパートなどの相続税評価額は、下記の計算式にて算出します。

[建物]貸家アパートなどの相続税評価額
=建物の固定資産税評価額-(建物の固定資産税評価額×借家権割合(30%)×賃貸割合)

通常、固定資産税評価額は、建築価格の60~70%程度で評価されることが多いと言えるため、ここでは7000万円の60%である4200万円として考えます。この結果、相続税評価額は、4200万円-(4200万円×30%×100%)=2940万円となります。つまり、建築価格7000万円のアパートが、実際には相続税の計算時には2940万円となるため、およそ4000万円分については相続税の対象とならないのです。

(2)土地の評価を引き下げることが可能

また、土地は貸家建付地に該当するため、一般的に自分で用いた場合の土地の評価額の20%ほど下げることが可能です。

[土地]貸家建付地の評価額
=自用地とした場合の評価額-(自用地とした場合の評価額×借地権割合
 ×借家権割合(30%)×賃貸割合)

これだけでも十分相続税対策につながりますが、土地については「小規模宅地等の評価減」が利用できます。土地の評価は、面積×路線価にて計算することができます。このケースの場合には、30万円×300㎡=9000万円となります。賃貸アパートの土地の場合、200㎡部分までに関しては50%の評価減を利用することができるため、30万円×200㎡×50%=3000万円分の評価を引き下げることができます。
したがって、9000万円-3000万円=6000万円の評価額となり、3000万円分については相続税の対象にならないことになります。

もしアパートの建築費用(土地含む)である1億6000万円を現預金で保有していれば、1億6000万円すべてが相続税の対象となってきますが、このように賃貸アパートの建設により大きく節税効果を発揮することができたと言えるのです。

<デメリット>

・アパートの賃料が本人の収入となるため、家賃収入に応じた所得税を納める必要がある

実際には、減価償却などを活用してある程度節税することも可能ですが、収入が多い場合には、所得税もかさむ可能性があります。また、家賃収入を現預金で確保している場合には、その現預金はまるまる相続税の対象となり得ます。そのため、家賃収入のうちいくらかを前もって贈与する(一般的な贈与の場合、年間110万円までの贈与であれば非課税となります)などの対策も立てておくと相続対策にもつながるでしょう。

これ以外に考えておくべきこと

その他、相続までの期間があまりなく、家賃収入が高額ではない場合には、本人名義での運用がベターでしょう。一方、親族名義にした場合のメリットとしては、家賃収入は親族の収入としてみなされるため将来の相続財産の引き下げにつながるということが挙げられます。土地所有者の所得税が安くなる点も見逃せません。ただ、このケースでは、親族間において無償で土地を借りて賃貸経営するということになりますので借地権が発生しないということになります。
つまり、その土地は更地として評価されるのです。更地の場合、特に評価減はないため、相続税の節税効果が極めて薄くなってしまいます。

まとめ

相続税対策のためのアパート経営を行うなら、建物の名義人は土地所有者本人にするということをまず検討してみましょう。とは言え、土地名義人の相続発生までの期間に余裕があるなら、親族名義にすることで使用貸借として贈与税が課税されないという仕組みを活用することも可能です。総合的に判断し、どちらのケースが有効かよく検討してみることをオススメします。