賃貸住宅の節税効果を左右する「空室率」の仕組みと対策

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土地資産(更地)の相続対策として、アパートなどの賃貸住宅を経営することは有効な方法です。しかし、ただ賃貸住宅を建築・保有するだけでは節税効果が得られにくくなる可能性があります。なぜならば、賃貸住宅の「空室」によって税額が変わってくるからです。

そこで今回は、空室率とは何か、そして空室があることで税額計算にどう影響するのか解説したいと思います。

1.空室率とは

空室率とは、賃貸住宅における空室の割合のことを指します。
賃貸アパートの空室率は、一般的に下記の計算式によって算出します。

空室数×空室期間(月数)/全室数×12ヶ月×100=空室率

この計算方法は、1年間の稼働月数のうち、空室月数の割合は全体の何パーセントかを図るためのもの。稼働空室率とも呼ばれています。

"空室率"と聞くと、空室数/全室数という計算式を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。ただこれは計算した時点での空室率となってしまい、1年を通してどのくらいの空室があったかを考えるときにはあまり参考になりません。不動産関連でよく使われる「空室率」とは、稼働空室率、もしくは月数を賃料に置き換えて計算した賃料空室率を基準とするのが一般的です。

2.空室が相続税額に影響する理由

賃貸アパートを建築することで、土地や家屋(建物)の相続税の節税効果が期待できます。土地・建物の相続税額は下記の方法で算出します。

【土地】利用区分が自用地(更地)から貸家建付地になった場合

貸家建付地の評価額
=自用地とした場合の価額-(自用地とした場合の価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

【建物】利用区分が自用家屋ではなく貸家になった場合

貸家の評価額
=建物の固定資産税評価額-(建物の固定資産税評価額×借家権割合×賃貸割合)
※借家権割合は30%で全国統一されています

賃貸アパートのような貸家の場合、借家権割合の控除を行なうことができる分、財産の評価額がさがり相続税の節税効果が生じます。ただ、ここで注意しておきたいのは、「賃貸割合」 について。賃貸割合とは床面積ベースでの入居率のこと。
入居率が100%なら問題ありませんが、長い間入居者が決まらない空室があればその分を自用の資産とみなされ、入居率100%に比べて評価額は上がることになってしまいます。
なお、空室になっていたとしても、それが一時的なもので、今後入居予定がある場合には空室とみなさずに評価可能です。

<入居率によって評価額が異なる事例>

仮に1億円の評価の土地に1億円の評価のアパートが建っていたとしましょう。土地とアパートの合計の評価額は2億円になります。

このアパートを人に貸しており、入居率が100%である場合は、通常20%ほど評価が下がるケースが多いと言えるため、土地は8000万円と評価され、また建物は30%下がると言え、建物は7000万円と評価されます。この結果、土地と建物で合計1.5億円の評価額となります。

一方、入居率が50%であるとすると、土地は9000万円、建物は8500万円の評価となるため、合計で1.75億円の評価額となり、2500万円も評価額が高くなるのです。

空室率と入居率はイコールではありませんが、「空室が多いと相続税の節税効果が薄くなる」ということが上記事例からもお分かりになっていただけたかと思います。
ちなみに、相続税の節税効果だけでなく、空室からは家賃収入も入ってこないため、ダブルパンチをくらうことになります。そのため、空室対策を前もって考えておくことが重要と言えます。

3.空室対策をどのように行うか?

仮に賃貸アパートにおいて空室が発生した場合にはどうすればよいでしょうか。また、空室にしない方法として何が考えられるか、下記にまとめてみました。

(1)賃料の値下げを検討する

空室が発生する理由の一つに、築年数の経過が考えられます。
新しい物件と比較してどうしても古くなった分見劣りするもの。そのため、古くなった分を考慮して、家賃の引き下げを検討する必要もあるかもしれません。ただし、値下げにより、他の部屋の契約者からも引下げを要求される可能性もあるため、値下げした契約者には秘密保持契約書を締結するといった方法で対応することも検討しましょう。

(2)募集条件を見直してみる

例えば、敷金や礼金、更新料を見直してみるとか、高齢者対応可能にするといった方法が考えられます。募集要件を緩和すれば、入居の可能性は高まると言えます。ただし、ペット飼育可能や楽器使用可能といった要件緩和の場合、他の住人への影響を特に考慮する必要があります。

(3)管理がしっかりできているか

不動産管理会社による管理がしっかりできているかもチェックすべきポイントと言えます。通常、管理がしっかりなされていれば、ポストにチラシが散乱していたり、共用廊下にゴミが落ちているといったことはまずないでしょう。念のため、管理が行き届いているかどうかも確認しておきましょう。

まとめ

せっかく賃貸アパートを建てても、空室ばかりでは相続税対策の効果が減ってしまいます。そのため、上記の空室対策の他、サブリース会社が提供している一括借上げのサービスなどを利用して対策をしている人も多いようです。空室率を意識したアパート経営が相続税対策の大きなポイントと言えるでしょう。
なお、賃貸アパートの場合はすべて空室といったおそれは少ないと言えますが、「貸倉庫」や「ロードサイド貸店舗」などにおいては、相続の日にテナントが入っていなければ、自身でその土地を利用する自用地評価となってしまい、まったく相続税対策につながらないことになります。そのため、相続が起こるまでに特に対策が必要である点も知っておきましょう。