「PASMO」サービス開始から10年!不動産業界におけるIT化のトレンド

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鉄道やバスで利用できる電子マネーとして2007年に「PASMO」が導入されてから10年になります。「PASMO」に代表される非接触型ICカードやそれに関連した決済サービス分野では、IT技術を背景に急速な進歩が見られました。

その一方で、不動産業界では、紙資料の多用、FAXや電話での連絡、対面による商談などが常態化しており、一般的にIT化が遅れている分野と言われています。

そのような状況の中でも、IT技術を活用して不動産取引における情報伝達や業務の効率化を図ろうとする動きも出てきています。そこで今回は、不動産分野におけるIT化のトレンドがどのようなものになっているのか、主に日本での事例を交えながら紹介したいと思います。

不動産版FinTech!「不動産テック」が生まれた背景

金融や財務管理の分野では、IT技術を駆使して有用性や利便性を高めたサービスを提供する「FinTech(フィンテック)」が注目を集めています。それに続けと言わんばかりに、不動産取引の分野においても「Real Estate Tech(リアル・エステート・テック)」あるいは「不動産テック」と呼ばれる先進的なサービスが生まれつつあります。

こうした「不動産テック」が必要とされる背景の一つとして、不動産取引における業者と消費者間での情報の非対称性(情報格差)があります。すなわち、十分な情報が開示されないことで一般消費者が不利益を受けないようにする仕組みが求められているのです。

国土交通省においても、そのようなこうした情報の非対称性を解消すべく、IT技術を活用した取り組みが検討されています。また、日本の中古住宅市場の流動性が欧米に比べて低いことも挙げられているため、中古物件の流通を活性化するためにもIT化が注目されています。

「不動産テック」のビジネスモデルとは

ITベンチャーを中心に様々なサービスが展開されていますが、ビジネスモデルはいくつかの視点で分類することができます。

1. 直接マッチングするサービス

1つ目は、情報の非対称性に着目したサービス。不動産業者を介さずに物件の売り手と買い手を直接マッチングするプラットフォームが出てきています。

これまで、物件情報は業者間で共有され、どの程度インターネット上に情報を公開するかも業者のさじ加減一つで決まる、という側面がありました。こうしたプラットフォームは、不動産業者を介さないことによって情報の透明性を高めることや、仲介手数料を排除することを目指したサービスと言えます。

2. ビッグデータやAIを利用したサービス

2つ目は、ビッグデータやAIを利用したサービスです。たとえば、過去の取引データなどから、統計的に不動産の推定価格をシミュレーションしてくれるツールがあります。

中には、AIによる価格分析を取り入れたものも出てきているため、今後はAIによる不動産鑑定や、金融分野で見られるロボットアドバイザーのようなAIによる不動産取引のアドバイスが提供されることも考えられます。

3. IOTを活用したサービス

3つ目は、IoT(モノのインターネット化)を活用したサービスです。

最近では、遠隔操作でドアロックの開閉を行うスマートロック製品が増えてきています。スマートロックとは一般に、PCやスマートフォンを利用してWEB上でドアロックの開閉を行えるような製品を指します。

こうした製品を利用した無人内覧サービスや、タブレット端末による音声案内などもIoTに分類されるサービスと言えるでしょう。

上記以上のようなサービス以外にも、契約事務や賃貸管理をクラウド上で実施したり、現在は対面で行われている重要事項説明を電子的な手続で済ませたり、VR(仮想現実)技術を活用した「ヴァーチャル内覧」を提供することも想定されます。

これらは、ITを活用した業務効率化の事例でもあるでしょうということもできます。こうした様々なサービスの登場により、私たちの暮らしが便利になることは大変好ましいことです。

「不動産テック」の今後の課題は?

このような「不動産テック」のサービスによってもたらされる利便性は歓迎すべきものですが、将来的に克服すべき課題もあります。

たとえば、ITの利用に慣れている消費者だけが便利になって、お年寄りなどITを十分に使いこなせない消費者が取り残される可能性があります。また、不動産は一般的に高額な取引であるため「顔が見えない不安」をどう解消するかという課題もあります。さらに、消費者が取引内容の妥当性や、適正価格を判断する難しさもあるでしょう。

こうした課題を克服するためには、誰もが利用しやすいデバイスやUI(ユーザーインターフェース)と、人間によるサポート体制が両輪となって機能することが必要と考えられます。

今後も「不動産テック」のトレンドは加速することが予測されますが、不動産取引はIT技術だけで完結するわけではありません。既存のサービスや営業手法と、新しいサービスとの組み合わせが鍵と言えるでしょう。