不安要因が多い2017年
米国大統領が、大方の予想を裏切って共和党トランプ氏の勝利に終わり、そのことが米国はもとより世界経済の不安定要因となっています。
ご存じのようにトランプ氏の経済政策の基本は、所得税率や法人税率の大幅な引き下げによる減税と1千億ドルといわれる巨額のインフラ投資、そして貿易に関してはNAFTA(北米自由貿易協定)やTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)からの離脱表明に見られる保護主義的なものです。
選挙時に表明した政策がどこまで実施されるかは不明です。
しかし、多少規模を縮小しながらでもこれらが実行に移されれば、米国の財政赤字を大きく膨らませ、また保護主義的な貿易政策は、米国に輸入物価の上昇をもたらすのではないかと懸念されています。
もう一つ、世界の耳目を米国に集めているものがあります。それは間もなく実施されるといわれる金利引き上げです。
日本や欧州では今、金融緩和政策を継続しています。各国の中央銀行が国債を購入する形で市中にお金を供給し、景気浮揚を試みています。金利は史上最低の水準に下がっており、欧州や日本ではマイナス金利になっています。
世界ではこうした金融緩和を継続する姿勢ですが、その中で米国だけが逆の方向に進もうとしています。
徐々に金利を引き上げることにしているのです。市中にお金を流し続ければ、当然インフレの懸念が出てきます。その芽を事前に摘もうというのです。
しかし、米国一国だけが利上げに進めば、その高い金利に引き寄せられるように、ドルが米国に流れます。新興国などに投資されていた資金が引き上げられることになり、その経済を苦境に立たせることになりかねません。
ドイツ、フランス、オランダであいついで選挙を実施
2017年には、欧州の主要国であるドイツ、フランス、オランダで選挙が実施されます。
イギリスが国民投票でEU(欧州連合)離脱を決定しましたが、欧州には、その動きに歩調を合わせるかのように、反移民を旗印にした保護主義的な動きが強まっています。
選挙結果によっては、イギリス、米国に続いて、そうした動きが強まり、経済のブロック化への大きな流れがつくられていくことも考えられます。
日本経済は正念場。企業業績も賃金も消費支出もマイナス
世界の政治・経済情勢が不安定な中、長いデフレからの出口が見えない日本にとって、2017年は正念場の年かもしれません。
2013年以降の、いわゆる「アベノミクス」が確かな効果を上げることができないまま、国の借金だけが積み上がっているからです。
よく知られているように「アベノミクス」は「異次元の金融緩和」により景気を刺激し企業収益を拡大、それに伴う株価の上昇と賃金の引き上げによってデフレからの脱却を目指すというものでした。
「大胆な金融緩和」「機動的な財政出動「規制緩和などを通じた成長戦略」を「3本の矢」としたものです。
金融の担い手である日銀が国債を大量に買い入れ、市場にお金を供給し続けているのですが、その効果は上がっていません。
例えば企業業績です。直近の2016年4〜6月期の「法人企業統計調査」によると、売上高は前年同期比でマイナス3.5%、経常利益はマイナス10.0%と下がっています。いずれも2期連続の減少です。
法人企業統計調査(単位%)
売上高 | 経常利益 | |
2015年10月-12月 | ▲2.7 | ▲1.7 |
2016年1月-3月 | ▲3.3 | ▲9.3 |
2016年4月-6月 | ▲3.5 | ▲10.0 |
当然、賃金の上昇は望めず、実質賃金は2010年から減少を続けています。
実質賃金指数(2010年を100としたときの変動率)
実質賃金 | 前年比(%) | |
2010年 | 100.0 | 1.3 |
2011年 | 100.1 | 0.1 |
2012年 | 99.2 | -0.9 |
2013年 | 98.3 | -0.9 |
2014年 | 95.5 | -2.8 |
2015年 | 94.6 | -0.9 |
その結果、家庭の消費支出も減少を続け、2016年9月は実質2.1%のマイナスとなりました。
年平均(前年比 %)
消費支出(実質) | |
2013年 | 1.0 |
2014年 | ▲2.9 |
2015年 | ▲2.3 |
月次(前年同月比 %)
消費支出(実質) | |
2016年6月 | ▲2.3 |
2016年7月 | ▲0.5 |
2016年8月 | ▲4.6 |
2016年9月 | ▲2.1 |
将来に夢を持てる社会に
企業業績、賃金、家計の消費支出----いずれを見ても前年比マイナスが続いています。これまで、日銀による300兆円を超える国債買い入れが行われたにもかかわらず、デフレから脱却は進んでいません。
確かに、支出を増やすことには躊躇せざるを得ない社会状況が続いています。多くの人の上に、年金、医療・介護への不安が大きくのしかかっている以上、無駄を省き、少しでも将来にお金を残すということを誰もが考えています。
本当の意味でのデフレ脱却への道筋は、この将来不安が解消されない限り、見えてこないのではないでしょうか。誰もが将来に夢を持てるようになるためには何が必要なのか、そこから改めて考えていく必要がありそうです。